解説
テレトピア
テレコミュニケーションとユートピアからつくられた造語で、コンピュータ通信などのニューメディアを活用して様々な課題を克服した社会といった意味です。
作品ではその懐かしい語感にあやかりつつ、70年代のテクノロジーでネット社会を実現した世界、程度の意味で使っています。
①アポロ11号の月面着陸(’69左)と、②大阪万博(’70右)がテレトピアへの気運を高めた。
197x年―テレトピア日本
作品の舞台は一足はやく高度情報化しつつあった架空の日本です。この世界ではテレタイプ端末が各家庭にまで普及して、電話線を介してコンピュータのタイムシェアリング(時間貸し)サービスに接続、Eメールや各種情報サービスが利用できます。
多くのテレタイプ端末はディスプレイを持たず、電話線からやってくる文字データを直接用紙に印字していました。また漢字は使えず、カナに英数字、一部の記号が利用できるのみでした。
わたしたちが今日使うようなパソコンの登場は、コンピュータの頭脳をワンチップに集積するマイクロプロセッサの登場が牽引しましたが、この世界ではそれがやや遅れています。
③世界初のマイクロプロセッサ4004(インテル 1971)。 後継の8080(1974)の登場からパーソナルコンピュータの歴史がはじまる。
テレタイプ端末―穿孔テープ
デジタル電気通信の歴史は意外に古く、それは1830年代のモールス符号による電信実験にまで遡ります。
1920年代にはこちらで打った文字を符号にして送り、送られてくる符号を文字に打ち直すテレ・タイプライタの登場が熟練を要した通信業務を自動化しました。
④テレタイプライタ(→)手前には音響カプラと穿孔テープが見える。
穿孔テープは電文の保管に使われたデジタル記録メディアで、紙テープに空いた穴の有無でデータを記録します。穿孔テープの歴史はさらに古く手回しの自動演奏オルガンや自動織機を制御したのは18世紀からでした。
⑤穿孔テープ(→)写真はジャカール織機のもの。
高度成長―通信開放
作中の日本は、電話回線を音声以外に利用できる通信開放が早い段階で為された世界です。
全国的な情報通信ネットワークによって有機化する企業活動が高度成長を支え、テレタイプによる情報サービスが一般家庭にまで浸透する道筋をつけました。
史実ではデータ通信の開放は1982年で、キャプテンシステムやパソコン通信、インターネットの普及はそれを待つことになります。
軍艦島
軍艦島(端島)は長崎県長崎市の海底炭鉱の島です。国のエネルギー政策の転換を背景に1974年1月に閉山、その3ヶ月後に無人島になりました。
物語終盤の舞台となる軍艦島をイメージした産業都市もその役割を終えつつあるようです。
⑥昭和36年の端島。そのシルエットから軍艦島と呼ばれた。
小池や東の組織
ときに焚書官と呼ばれ、とあるマニュアルの封殺を任務とするこの組織。その成立は明治政府発足の時代まで遡るとか。
明治天皇洋行の際、国際社会から主権国家として認知されるにはこれを設立・運用するよう言われたとか。
現在は皇宮警察の秘密セクションでその本部はバチカンにあるとか。
持明者とその異能
作品には異能を修めた者たちが登場しますが、その多くは法の修行の課程でその力を授かりました。
ときに強力な加持の力で焚書官の追撃を退ける彼らですが、その究極の目的にとってそのような力は単に副産物に過ぎないともいえます。
臨死体験の世界
チベット密教の描く死後の体験は絢爛豪華なスペクタクルショーです。天を埋め尽くさんばかりの神仏の軍団が、死者の意識を輪廻から救い解脱へと導くべく来迎します。
物語冒頭で、法を実践しそのときを迎えたかれらは、そこに何をみたのでしょう?死後も連続するなにかはあるのでしょうか?
⑦寂静尊マンダラ(右)と、⑧忿怒尊マンダラ(左)。チベット密教の説明する死者の体験が描かれている。
図版の引用
①連合赤軍・“狼”たちの時代 毎日新聞社②日本20世紀館 小学館③月刊ASCII 1994年2月号④テレトピアへの道 日本電信電話公社⑤計算機械創造の軌跡 The Office of charles and Ray Eames 山本敦子 和田英一 アスキー出版局⑥軍艦島 海上産業都市に住む 伊藤千行 阿久井喜孝 岩波書店⑦⑧原典訳チベット死者の書 川崎信定 筑摩書房